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岡山地方裁判所 平成10年(行ウ)2号 判決

主文

一  本件訴えのうち主位的請求にかかる部分をいずれも却下する。

二  原告の予備的請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1(一)  主位的請求

(1) 原告が平成一〇年一月三〇日付けでした道路法二四条に基づく道路工事の承認申請につき、被告が何らの処分をしないことが違法であることを確認する。

(2) 原告が平成一〇年二月三日付けでした道路法二四条に基づく道路工事の承認申請につき、被告が何らの処分をしないことが違法であることを確認する。

(二)  予備的請求

(1) 原告が平成一○年一月三〇日付けでした道路法二四条に基づく道路工事の承認申請につき、被告が同年三月三〇日付けでした承認拒否の処分を取り消す。

(2) 原告が平成一〇年二月三日付けでした道路法二四条に基づく道路工事の承認申請につき、被告が同年三月三〇日付けでした承認拒否の処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1(一)  主位的請求

(1) 本案前の答弁

主文第一項同旨

(2) 本案に対する答弁

原告の主位的請求をいずれも棄却する。

(二)  予備的請求

主文第二項同旨

2  主文第三項同旨

第二事案の概要

一  本件は、道路管理者である被告に対して道路法二四条に基づき道路工事の承認申請をした原告が、被告に対し、主位的に被告が原告の右承認申請書を返戻した行為は行政処分にはあたらず、申請から相当期間経過したのに右承認申請に対する行政処分がないとして、右承認申請に対する被告の不作為の違法確認を、予備的に右承認申請書の返戻行為が右承認申請に対する承認を拒否する行政処分にあたるとしても、右処分は不服であるとして右処分の取消しを求めた事案である。

二  争いのない事実

1  被告は、岡山県赤磐郡吉井町(以下「吉井町」という。)の道路(町道)管理者である。

2  申請書の提出及び返戻行為

(一) 原告は、平成一〇年一月三〇日、被告に対し、道路法二四条に基づき、岡山県赤磐郡β一七一二番二(以下、岡山県赤磐郡内の場所は、町名以下で表示する。)先の町道寄宮線(別紙図面中の「道路工事施工承認申請箇所I」参照)のL型側溝新設工事の承認申請書を提出した(以下「本件一月申請」という。)。

(二) 原告は、平成一〇年二月三日、被告に対し、道路法二四条に基づきγ一六七一番地二先の町道寄宮線(別紙図面中の「道路工事施工承認申請箇所Ⅱ」参照)のアスファルト舗装・門設置工事の承認申請書を提出した(以下「本件二月申請」といい、本件一月申請と併せて「本件各申請」という。)。

(三) 被告は、平成一〇年三月三〇日、原告に対し、右各申請書返却の理由を記載した「道路工事施工承認申請書の返却について」と題する文書(甲三。以下「返却理由書」という。)を付して、本件各申請の申請書を返却した(以下「本件返戻行為」という。)。

3  原告及びその関連会社が、δ地区において設置を企図する産業廃棄物焼却施設(以下「本件隣接処分場」という。)に関連して行った申請は、別表1(吉井町に対するもの)及び2(岡山県に対するもの)記載のとおりであり、その経過は同表の各「経過」欄記載のとおりである。

三  争点及び争点に関する当事者の主張

1  本件返戻行為は本件各申請に対する承認拒否の処分か。

(被告の主張)

本件では、①原告から申請の形式的要件を備えた本件各申請の申請書が被告事務所に到達し、②右到達から本件返戻行為まで五五ないし五九日が経過し、③被告は、本件返戻行為前の平成一〇年二月一〇日、聴聞に準ずる意見聴取会を開催して原告に弁明の機会を付与し、④右意見聴取会において、原告関係者及び吉井町各課担当者が多数出席して、申請内容についての質疑が十分に行われ、⑤被告は④の結果を踏まえて本件各申請に対する拒否の意思決定をし、原告に対し一〇項目にわたる拒否理由を明示した書面を交付して本件返戻行為をしていることから、被告の本件返戻行為は、単なる事実上の書類返戻行為にとどまらず、申請内容を審査したうえでこれの承認を拒否した処分であり、実質的には不承認処分である。

(原告の主張)

本件返戻行為は、事実行為である審査の拒否であり、法的効果を伴う行政処分ではない。

2  本件返戻行為が承認拒否の処分である場合、右承認拒否処分は違法か。

(被告の主張)

道路に関する工事、維持は道路管理の基本行為であり、道路管理者の本来的権能に属するものであるから、道路法二四条の道路管理者の承認は広汎な裁量に委ねられているところ、右承認をするか否かの判断は、申請にかかる工事の必要性、設計及び実施計画の合理性、道路管理上の支障の有無などを総合的に考慮してなされるべきものである。本件において、被告は、右のいずれの点においても承認に適さないと認めて原告の申請について承認を拒絶したのであり、被告に裁量権の逸脱はないし、手続的にも、被告は、申請人である原告の意見を聴取するための聴聞に準ずる手続を開催して弁明の機会を与え、承認拒否処分にあたって理由を付記した書面を交付しているのであるから、右承認拒否処分に違法はない。

具体的には、①本件各申請にかかる区域の道路(以下「本件各申請道路」という。)の幅員はいずれの部分も二・三ないし二・五メートルと狭隘であり、本件各申請道路につき道路管理者以外の者の道路工事等を承認することは道路管理上の支障がないとはいえないこと、②原告は、本件各申請道路の工事の目的を焼却炉敷地造成とし、原告が企図する本件隣接処分場の入口は、本件各申請道路と接することとなっているところ、原告の関連企業による本件隣接処分場設置許可申請については、施設設置主体の表示が疑わしく、その計画としての同一性に欠け、原告は、本件隣接処分場設置許可申請にあたって、行政庁との事前協議や行政指導を無視する態度をとり、本件隣接処分場設置とは別の私利を目的とする疑いがあったし、原告が本件各申請とともに提出していた建築確認申請等の諸申請には、不明・不備な点、重複し矛盾する点があまりに多かったし、被告は、原告及びその関連会社に対する意見聴取を行ったが、何ら改善されることはなく、本件各申請を除き取り下げられたにもかかわらず、本件各申請のみが維持されたもので、本件隣接処分場への連絡路は、本件各申請道路以外にも幅が二メートルに満たない部分が点在し、本件各申請道路部分のみの改良では、本件隣接処分場に車両が進入できないことなど、本件各申請の工事の必要性、設計・計画の合理性、実現可能性の有無等の事情を考慮し、公益的な見地から、被告は、本件各申請の承認を拒否したのであって、被告の裁量権の行使には違法・逸脱はない。

なお、原告は、地元住民の同意があることを強調するが、同意書に押印がないなどの不完全な同意であったり、土地によっては同意自体がない部分もあるし、そもそも道路工事は、沿線地権者の承諾ではなく、町議会の承認により道路管理者である町が施工するものであるから、地元住民の同意の有無は関係がない。

(原告の主張)

被告は、原告の本件隣接処分場に関する諸申請中には重複する部分があると主張するが、それぞれ処理する品目が埋立物と焼却物と異なるものであって、重複するものではないし、重複する地域に申請したのは被告の行政指導によるもので、被告は、原告の本件各申請を拒否するために意図的に右のような行政指導を行ったのである。また、本件隣接処分場に至る道路の幅は、原告の企図する小型焼却炉の能力に見合う量の廃棄物を運搬する二トントラックが十分通行できるものであり、現在の通路幅でも問題ないし、必要であれば、道路法二四条に基づく道路管理者の承認を得ることなく、自由に私有地を利用して私道を町道の隣接部分に併設することにより町道を拡幅することができるのである。さらに、地元周辺住民の同意も得られている。

したがって、被告が本件各申請を拒否する理由は、地域及び住民のエゴ、政治的権力争いの道具、原告に対する嫌がらせによるものであり、拒否に正当な理由がないから違法である。

また、被告のした承認拒否の処分は、法律上の根拠のあるものではないので違法である。

3  本件返戻行為が承認拒否の処分ではない場合、被告が本件各申請に対し何らの処分をしないことは違法か。

(原告の主張)

被告は、本件各申請が到達した以上、直ちに審査を開始し、形式的不備については、補正を求めるなどし(行政手続法七条、吉井町行政手続条例七条)、そうでなければ、本件各申請により求められている承認又はその拒否の処分をしなければならないところ、被告は、本件各申請が到達し相当の期間が経過したにもかかわらず、審査・処分をしていないので、被告の右不作為は違法である。

第三争点に対する判断

一  前記争いのない事実、証拠(甲一ないし三、六、七、九ないし一一、乙一ないし一二〔枝番を含む〕、証人a)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

1  本件一月申請は、β一七一二番二(別紙図面中の②の区域〔紫色部分〕。以下「②区域」という。)先の道路(町道寄宮線)につき、焼却施設敷地造成のためにL型側溝を新設することを目的として申請された。

本件二月申請は、γ一六七一番二(別紙図面中の④の区域〔橙色部分〕。以下「④区域」という。)先の道路(町道寄宮線)につき、焼却施設敷地造成のためのアスファルト舗装・門設置を目的として申請された。なお、原告は、本件二月申請とともに、平成一〇年二月三日、④区域に自社処理にかかる木くずの焼却場の設置を目的とする建築確認申請書を被告に提出した。

2  本件各申請と前後して、原告の関連会社である株式会社アイ・クリーン(代表取締役j。以下「アイ・クリーン」という。)は、平成一○年一月二六日、②及び④区域と同じδ地区内であるθ一五九一番(別紙図面中の①の区域〔黄緑色部分〕。以下「①区域」という。)における木くずの焼却施設の設置を目的とする建築確認申請書を、同月二八日、右焼却施設の敷地造成による搬入路設置を目的とする道路工事施工承認申請書を被告に対して提出した。

4  さらに、原告は、本件各申請と前後して、平成一〇年二月二日、①、②及び④区域と同じδ地区内であるι一六五五番一(別紙図面中の③の区域〔桃色部分〕。以下「③区域」という。)に自社処理にかかる木くずの焼却施設設置を目的とする建築確認申請書を被告に提出した。

5  原告及びその関連会社は、前記①、③及び④区域における建築確認並びに前記①、②及び④区域における道路工事施工の申請に先立ち、①ないし④区域と同じδ地区内に次の産業廃棄物処分場設置許可及び林地開発許可等の申請をしていた。

(一) 原告は、γ一六六二番一外一五筆(別紙図面中の(A)の区域〔青色部分〕。以下「(A)区域」という。)に産業廃薬物最終処分場(管理型)の設置を計画し、平成九年七月一八日、被告に対して林地開発許可申請書を提出し、被告は反対意見を付して岡山県知事に進達した。岡山県知事は計画が未確定であり審査できない旨を原告に伝達して審査が保留されたため、原告は、平成一〇年四月二一日、岡山県知事を被告として右審査拒否につき違法確認訴訟を提起し(当庁平成一〇年(行ウ)第三号林地開発許可申請審査等拒否違法確認請求事件)、右訴訟敗訴後、東備地方振興局長を被告として再び同様の訴訟を提起した(当庁平成一〇年(行ウ)二二号林地開発許可申請審査等拒否違法確認請求事件)。

原告は、平成九年一二月二六日、岡山県知事に対し、(A)区域における産業廃棄物処理施設設置許可申請書事前計画書を提出したが、岡山県知事は同日、隣地同意書・放流同意書の添付書類不備を理由として事前計画書を返却した。原告は、平成一〇年四月二二日、吉井町仁堀中区代表者区長oを被告として訴訟を提起したが(当庁平成一〇年(ワ)第三九八号証書真否確認請求事件)、同年七月一六日、右訴えを取り下げた。

原告は、平成一〇年二月二五日、被告に対し、(A)区域における産業廃棄物処理施設設置許可申請書を提出したが、被告は、同年三月一〇日、事前協議が終了していないことを理由として右申請書を原告に返却し、原告は、同年四月二二日、岡山県知事を被告として右返却につき違法確認訴訟を提起した(当庁平成一〇年(行ウ)第四号産業廃棄物処理施設設置許可申請受理拒否処分違法確認請求事件)。

原告は、(A)区域につき、平成九年三月二六日、産業廃棄物処理施設設置許可申請書を提出したが、岡山県知事は事前協議が終了していないことを理由に右申請書を原告に返却し、原告は、平成一〇年六月二日、岡山県知事を被告として、右返却につき違法確認訴訟を提起した(当庁平成一〇年(行ウ)第九号産業廃棄物処理施設設置許可申請について処分しないことの違法確認請求事件)。

(二) 株式会社岡山クリーンサービス(代表取締役p。以下「クリーンサービス」という。)は、ε一七五五外一一筆(別紙図面中の(B)の区域〔緑色部分〕。以下「(B)区域」という。)につき、産業廃棄物最終処分場(管理型)の設置を計画し、平成五年七月二〇日、岡山県知事及び被告に対し、産業廃棄物処理施設設置許可申請書等を提出したが、同月二二日、右申請書のうち計画書が返却されたため、クリーンサービスは、同年一○月七日、岡山県知事及び吉井町長を被告として、右返却につき違法確認訴訟を提起し、平成八年七月二三日、岡山県知事に対する訴えについては棄却、吉井町長に対する訴えについては却下の判決が言い渡された。クリーンサービスは、右判決のうち岡山県知事に対する訴えにかかる部分につき広島高等裁判所岡山支部に控訴したが、平成九年八月二八日、右訴えについては却下の判決が言い渡された。

(三) 原告は、δ字一七五五番外一七筆(別紙図面中の(C)の区域〔赤色部分〕。以下「(C)区域」という。)において産業廃棄物最終処分場(管理型)の設置を計画し、平成一〇年六月三日、産業廃棄物処理施設設置許可申請書を岡山県知事に提出したが、岡山県知事は右申請書を原告に返却したため、原告は、同月二二日、岡山県知事を被告として右返却について違法確認訴訟を提起した(当庁平成一〇年(行ウ)第一一号産業廃棄物処理施設設置許可申請受理拒否処分違法確認請求事件)。

(四) 原告は、ζ一七一〇番(別紙図面中の(D)の区域〔茶色部分〕。以下「(D)区域」という。)においても産業廃棄物最終処分場(遮断型)の設置を計画し、平成一〇年六月一日、岡山県知事に対し、産業廃棄物処理施設設置許可申請書を提出したが、岡山県知事は右申請書を原告に対して返却したため、原告は、同年七月二七日、岡山県知事を被告として、違法確認訴訟を提起した(当庁平成一〇年(行ウ)第一六号産業廃棄物処理施設設置許可申請について処分しないことの違法確認請求事件)。

6  原告は、平成九年七月一日、被告に対し、(A)区域におけるリサイクル工場の設置・営業のため、δ地区内の町道奥行吉線の道路占有許可申請書及び道路法二四条の工事施工承認申請書を提出し、被告は、同月二四日、右各申請に対しそれぞれ許可又は承認をした。

7  ところで、吉井町における道路工事施工承認の申請手続は、まず申請書が吉井町役場建設課に提出され、窓口で形式面について審査された後、特に不備が多く内容面の審査をすることができない場合は、その場でいったん申請書類を返却して補正のうえ提出し直してもらうが、そうでない場合はとりあれも自社処理用以外の焼却施設設置に必要である産業廃棄物処理業の許可を得ていなかった。

(三) ③区域の建築確認申請においては搬入路を設置する計画があったにもかかわらず、道路占有に関する申請は未提出であった。また、④区域への進入道路は、その幅員が最小部分で約二・三メートルという普通車一台がなんとか通ることのできる程度の幅であったことから、焼却施設の設置に際して予想される大型車の通行は不可能であると思われ、道路管理上も支障が生じると考えられた。なお、右道路の拡幅は、道路管理者が行うもので、地権者全員の同意があったとしても私人が行うことはできない。

(四) ①区域についての建築確認申請と③区域の建築確認申請の双方において、①区域内にそれぞれ別の進入路を設置する計画となっていたが、その必要性は低いと思われる点で原告及びアイ・クリーンの右の各建築確認申請は不自然であった。

(五) ①、③及び④区域のいずれの建築確認申請についても、岡山県景観条例による大規模行為の届出がされていなかった。

(六) ①、③及び④区域の焼却施設の計画につき、小型焼却炉の処理ではダイオキシンが発生しやすく、周辺住民の健康を損なうおそれがあり、その近隣は山林で火災発生の危険があったにもかかわらず、右区域の土地所有者、隣接の土地所有者及び近隣民家の同意の有無が不明であった。

(七) ①、③及び④区域の焼却施設は、集塵灰の処理方法が不明であるうえ、ほぼ同区域に焼却施設を三箇所も設置する必要性が明らかでなく、各焼却施設の設置・運営の主体も必ずしも明らかでなかった。

9  なお、②区域に対する本件一月申請は、焼却施設敷地造成のためにL型側溝を新設することを目的としていたが、②区域につき、焼却施設設置目的の建築確認申請は提出されておらず、被告においては、②区域の焼却施設の計画の内容(県知事の許可が不要である焼却施設であるか許可が必要な産業廃棄物処理施設であるか)、廃棄物処理方法、処理容量、処理対象廃棄物の種類、計画自体の実行性等については不明であった。

ところで、産業廃棄物処理施設設置予定の(A)区域と焼却炉設置予定の④区域は、④区域が(A)区域に包含される形で重複しており、産業廃棄物処理施設設置予定の(B)区域と別の産業廃棄物処理施設設置予定の(C)区域についても、ε一七五五番地外七筆の部分につき重複していた。

そのため、当時の吉井町総務課長(以下、役職はすべて当時のもの。)aは、本件各申請は②及び④区域のものであるが、その意図するところは(A)ないし(D)区域の産業廃棄物処理場への進入路であるとの印象を持った。

(10)(一) 吉井町は、前記8の問題点について申請者である原告及びその関連会社から意見を聴取するため、平成一〇年年二月一〇日午前一〇時から吉井町役場二階会議室において、①、③及び④区域の建築確認申請を対象としたδ地区焼却炉設置計画にかかる意見聴取会(以下「意見聴取会」という。)を開催することとし、同月六日、原告及びアイ・クリーンに対し、意見聴取会開催の通知をした。

意見聴取会には、吉井町側からは、総務課長a、建築課長b、企画課長c、企画課長補佐d、産業課主事e、企画開発課長補佐f、保健課長g、保健課長補佐hの合計八名が、原告側からは原告代表者i、アイ・クリーン代表取締役j(iの長男)、k(iの次男)、l(iの実弟)、焼却炉メーカーである株式会社三和の関係者一名の合計五名が出席した。

(二) 右吉井町側関係各課職員からの質疑に対し、右原告側出席者らは、前記8(一) の保安林の点については、「落としていた」と答えるのみでそれ以上の説明はなく、同(二)の自社処理以外の用途ではないかという点については、原告は現在のところは自社処理の計画であり、計画している焼却炉は八時間稼働しても四トントラック二台分の木くずしか焼却できないのでその量はさほど多くない、地元の合意を得ていないので現在のところは自社処理を考えている、三箇所の焼却炉を連続して稼働することによりダイオキシンの削減と経費節約になる、大規模な焼却炉の場合は許可が必要だからである、たまたま一箇所に数個の焼却施設が集中しているが計画中の五箇所のうち許可の不要なものから申請した、会社が別だから一箇所にはできないといった説明をした。

また、前記原告側出席者らは、前記8(四)の同一区域における二箇所の搬入路の件については、地元の要望により二箇所に分けている、会社が異なるので別々に作りたいという説明をし、同(五)の岡山県景観条例の件については、そもそも条例の存在を知らなかった旨述べ、同(六)の地元の同意に関しては、四軒に立退きを依頼中で一軒は合意を得ていないという説明をし、同(七)の集塵灰の処理については、赤坂町山手(昭和六三年一一月一四日許可)のミツカワの処分場で対応したいという説明をした。

(三) 原告は、前記吉井町側関係各課職員に対し、意見聴取会の後、③区域の建築確認申請はいったん取り下げて、また改めて提出し直すと申し出た。

なお、意見聴取会の時点においても、②区域における建築確認申請は提出されていなかった。原告は、意見聴取会において、②区域には規模の大きい廃プラスチック処理施設(自動車破砕くず)を計画しており、いずれ産業廃棄物処理施設設置許可申請をしたいと述べた。

11  原告は、平成一〇年二月一〇日、③区域の建築確認申請を取り下げ、アイ・クリーンは、同年三月一六日、①区域の建築確認申請及び道路工事施工承認申請を取り下げた。

12  吉井町の関係各課担当者八名は、取下げのなかった本件各申請及び④区域の建築確認申請について検討し、本件各申請については、意見聴取会における前記原告側出席者らの説明によっても、本件各申請と関連する①、③及び④区域の建築確認申請についての前記8の各疑問点が払拭されなかったことから、吉井町としては本件各申請を拒否するとの結論に達し、書面で拒否理由を明示したうえで本件各申請書を原告に返却することとした。④区域の建築確認申請については、被告は、同年二月三日付けで反対意見を付して岡山県建築主事に進達し、岡山県建築主事は、同年八月一一日付けで建築確認をし、右建築確認について原告に通知した。

13  被告は、平成一〇年三月三〇日、本件各申請に対する拒否理由を返却理由書(及びこれに添付された別紙)に明示したうえで、本件各申請にかかる申請書を原告に返却した。

被告の拒否理由は、次に列記する返却理由書添付別紙記載の事情、前記5の原告及びその関連会社の企図していた(A)ないし(D)区域の産業廃棄物処理施設との関係並びに意見聴取会及び(A)ないし(D)区域の各申請に関する原告及びその関連会社関係者の行動・態度を総合すると、①ないし④区域における申請計画自体の実現の可能性及び当該区域における各焼却施設設置の必要性が認められず、工事の必要性、設計及び実施計画の合理性がなく、道路管理上も支障が生じるというものであった。

(一) ④区域の一部であるδ一六七一番二の所有者q及び②区域の所有者mから原告への土地の所有権ないし利用権等の権利譲渡、設定が未了であった。

(二) 前記5の原告ないしその関連会社による産業廃棄物最終処分場設置等の計画に対し、近隣住民に反対者がおり、その者と原告関連会社との間で当時訴訟が係属中であった。

(三) 原告の焼却場敷地造成計画につき、吉井町土地保全条例による開発協議がされておらず、②及び④区域を含む全体計画において必要な森林法に基づく林地開発や保安林指定解除の手続がなされていなかった。

(四) 吉井町議会は、平成四年四月三〇日に原告ないしその関連会社による産業廃棄物処分場設置に対する反対決議をしており、吉井町区長会及び吉井町環境衛生協議会は、平成五年五月二〇日、右同様の反対決議をしており、下流域に隣接する岡山県赤磐郡赤坂町議会も、平成三年一二月一九日、右同様の反対請願が採択されていた。

(五) ①ないし④区域の焼却施設の設置主体、管理運営主体が必ずしも明らかではなく、④区域については、産業廃棄物処理施設設置許可申請のされている(A)区域と重複していた。

(六) ①、③及び④区域の焼却施設の焼却炉においては、一時間あたり一八〇キログラムの焼却能力を有する小型焼却炉の取り付けられる煙突の設置が予定されていたが、小型焼却炉ではダイオキシンが発生しやすく、周辺住民の健康を損なうおそれがあった。

(七) 産業廃棄物処分場に関連する火災は、過去数年間において、国内で年間約五〇〇件発生しており、特に、本件各申請にかかる区域は、周辺が山林であるため火災の危険が高く、火災発生時には道路事情や水利事情が悪いことから消火活動が困難であり、鎮火まで相当の時間を要する危険をうかがわせる状況があった。

(八) ①ないし④区域との接続道路である町道掛応寺線(幅員二・三メートル)及び町道寄宮線(幅員二・五メートル)は幅員が狭隘で、他方、焼却施設を設置した場合は廃棄物搬入のため大型車両の頻繁な運行が予想されることから、右のような狭い道路を利用せざるを得ないような焼却施設の設置には道路管理上重大な支障があることが予見された。

(九) 吉井町土地保全条例三条二号によれば、道路等が通行の安全上支障がないような規模及び構造で適切に配置されることが必要であり、また、建築基準法及び都市計画法(開発許可基準)によれば、トラック等の大型運搬車の頻繁な進入が予想される焼却施設については、四メートル以上の道路に接続することが必要であるところ、本件各申請にかかる地域は右法律の適用外の区域であるが、右の法律の趣旨に鑑み、大型車の頻繁な運行が予想される点で、本件各申請にかかる地域にも右法律の関連規定が準用されるべきであるが、本件各申請にかかる地域は右の法律の各要件を満たしていなかった。

14  その後、原告は、岡山県知事に対し、平成一〇年六月一〇日、②区域に産業廃棄物(廃プラスチック類)中間処理施設設置許可申請をしたが、岡山県知事は右申請にかかる申請書を原告に返却したため、原告は、同年七月二七日、岡山県知事を被告として右の返却行為につき不作為の違法確認訴訟を提起した(当庁平成一〇年(行ウ)第一五号産業廃棄物処理施設設置許可申請について処分しないことの違法確認請求事件)。

二  右認定事実をもとに各争点について判断する。

1  本件返戻行為の処分性について

道路法二四条は、道路管理者以外の者は「道路に関する工事の設計及び実施計画について道路管理者の承認を受けて道路に関する工事又は道路の維持を行うことができる。」と規定しており、道路管理者以外の者は道路管理者の承認を受けた場合に初めて道路工事を施工することができるのであるから、道路に関する工事の設計及び実施計画についての承認又は不承認は、公権力の主体たる国又は公共団体の行為によって、直接国民又は住民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものであり、それ自体行政処分である。

ところで、申請に対する処分について、行政手続法七条は「行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。」と規定し、同法八条は、行政庁が申請により求められた許認可等を拒否する場合は、申請者に対し、右の許認可等と同時に当該処分の理由を示さなければならず、右の許認可等の処分を書面で行う場合は、理由の開示も書面によるべきことを定めている。

したがって、道路工事施工承認申請にかかる申請書が提出された場合、本来であれば、道路管理者である行政庁は、申請がその事務所に到達すると遅滞なくこれを審査し、内部的には決裁を経て、承認処分をするか、承認できない場合は理由を付して不承認処分をすることにより、その処分結果を明確にすべきである。もっとも、右申請に対する審査を経たのに承認・不承認の具体的な明示がないままに申請書が返戻される場合もあり、このような場合は、右返戻行為が、申請書の撤回又は補正を促す単なる事実上の措置にとどまるものか、承認を拒否(不承認)する行政処分なのかが問題となるところ、その判断は、形式的に承認・不承認の記載の有無だけによるのではなく、行政庁がどのような意思で当該返戻行為をしたかを考慮して判断されるべきである。

本件においては、(1)前記認定事実によれば、被告は、本件各申請が平成一○年一月三〇日及び同年二月三日にそれぞれ被告の事務所に到達した後、本件各申請及びこれに関連する原告及びその関連会社の①、③及び④区域の建築確認申請等について、関係各課で検討して被告として審査を開始したところ、問題となる点が多かったため、本件二月申請から一週間後の同年二月一○日、①、③及び④の建築確認申請について原告及びその関連会社の意見を聴取する機会を設けて、さらに審査・検討をすすめ、その結果、本件各申請については承認することはできないとの結論に達したことから、同年三月三〇日、原告に対し、拒否の理由を明示した返却理由書と共に本件各申請にかかる申請書を返却したことが認められ、その経緯に鑑みると、被告は行政手続法七条に規定されている申請の到達以降の審査の手続を経た上で同法八条二項の規定に従い拒否の理由を書面により明示して本件返戻行為をしたものであり、(2)証拠(甲一)によれば、被告は、返却理由書本文において本件各申請にかかる申請書を返却するとしか述べておらず、不承認とする、あるいは承認できないとの記載はなかったことが認められるが、他方で、返却理由書本文には再度の提出を期待するような補正・訂正事項についての記載もなかったことが認められ、かえって、前記認定事実によれば、返却理由書本文で引用されて返却理由書と一体となっている別紙では、本件各申請にはこれを承認するには単なる訂正などでは治癒できないような重大な問題が存在することが記載されており、被告は、原告に右問題を訂正して本件各申請書類を改めて提出し直すことを期待しているのではなく、むしろ本件各申請を拒否する意思で本件返戻行為をしたものであり、右の被告の承認拒否の意思は返却理由書上も客観的に明白であったと認めることができる。

したがって、本件返戻行為は、不承認処分として被告事務所の関係各課における決裁を経たわけではなく、不承認に相当する文言を明示した通知をしたものではないとはいえ、前記のとおり、申請に対する処分を行う上で行政手続法の要求する必要な手続を経た上で、被告の本件各申請に対する承認拒否の意思が客観的に表現されているものと認められるのであるから、実質的な不承認処分として本件各申請に対する承認拒否の処分を行ったものと解すべきである。

よって、本件返戻行為が処分にあたらないことを前提として、被告の不作為の違法確認を求める原告の主位的請求にかかる訴えについては、右のとおりすでに処分が行われているのであるから不適法である。

2  本件返戻行為による承認拒否の処分の違法性の有無について

道路法一六条一項は「市町村道の管理はその路線の存する市町村が行う。」と規定しており、町道の管理及び道路工事の施工の権限は、町道の属する町にあるところ、同法二四条の工事の承認をするかどうかは、原則として道路管理者の自由な裁量に委ねられており、道路管理者は、工事の必要性、設計及び実施計画の合理性並びに道路管理上の支障の有無などを総合的に判断して承認するか否かを決することができるものであり、同法二四条の施工承認に関する処分は、道路管理者が承認等の処分にあたりその裁量を著しく逸脱した場合にのみ違法となると解される。

これを本件についてみると、本件各申請はそれぞれ②及び④広域に関するものであるが、前記一で認定した事実によれば、(1)原告及びその関連会社は、②及び④区域と同じδ地区内に、①ないし④及び(A)ないし(D)区域の合計八箇所にそれぞれ焼却施設又は産業廃棄物処理施設の設置を計画しているところ、原告もその関連会社も産業廃棄物処理業の許可を得ていないことから、自社処理用として別々に八箇所に焼却施設等の設置を計画しているということ自体不自然であるし、これらの焼却施設等の計画区域のうち重複している部分が二箇所あり、一部の土地については原告又はその関連会社による所有権の取得等の権利の譲渡、設定が未了であり、焼却施設においては排煙等によりいわゆる迷惑施設としての一面を有しているにもかかわらず地元住民の同意がなく、林地開発や保安林指定解除などの必要な法的手続が未了であるなど重大な問題があったこと、(2)②区域については、本件一月申請は、焼却施設の設置を前提とする道路工事であるにもかかわらず、本件返戻行為の時点においても焼却施設の建築確認申請あるいは産業廃棄物処理施設設置許可申請などはなく、②区域における焼却施設の内容、種類、計画等がまったく不明であったことからすれば、①ないし④区域における焼却施設計画自体の実現の可能性、当該区域における各焼却施設設置の必要性が認められず、したがって、焼却施設の設置を前提とする本件各申請の道路工事は、その必要性並びに設計及び実施計画の合理性がないと評価できるし、(3)さらに、前記一で認定した事実によれば、焼却施設の設置を前提とした本件各申請を承認することは、狭隘な道路に大型車両の頻繁な通行を認めることとなりかねず、道路管理上の支障があると認められる。したがって、これらの事情からすると、本件各申請に対する承認拒否の処分には、道路管理者である被告の裁量権の著しい逸脱があるとはいえず、いずれも道路管理者に与えられた裁量の範囲内のものであると認められるから、右各承認拒否処分にはこれを取り消すべき違法はない。

原告は、前記のとおり、右(1)については、重複地域は、処理する品目がそれぞれ埋立物と焼却物と異なるものであって、重複するものではなく、重複する地域に対する申請となったのは被告の行政指導に従ったからであり、地元周辺住民の同意も得られている、(3)については、通路の幅員は、原告の企図する小型焼却炉の能力に見合う量の廃棄物を運搬する二トントラックが十分通行できるもので問題ないし、必要であれば、私有地を利用して町道の隣接部分に道路管理者の承認が不要である私道を併設することにより事実上町道を拡幅すれば済むことであるなどとして、被告が本件各申請を拒否する正当な理由はないものであると主張するが、右原告の主張を認めるに足りる証拠はなく、原告の主張は採用できない。

したがって、本件返戻行為による承認拒否の処分の取消しを求める原告の予備的請求は理由がない。

三  以上の次第で、原告の主位的請求にかかる訴えは不適法であるからこれを却下し、原告の予備的請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野木等 裁判官 村田斉志 裁判官 村上誠子)

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